石川一雄さんは、警察にだまされたとはいえ、ウソの自白をしてしまったことで「今なお多くの人に迷惑をかけている」と苦しみ続けています。
また、多くの人は「いくら強要されたと言っても、身に覚えのない事件の犯人として自白することなどありえない」と思うかもしれません。
果たしてそうでしょうか。
石川一雄さん→30
袴田巌さん→19
甲山事件のYさん→10
足利事件の菅家利和さん→1
上記の名前と数は、何を現わしているでしょうか。
実はこれは、えん罪被害者が逮捕された日からウソの自白をはじめるまでかかった日数を現わしています。
この間、再審無罪となった布川事件の桜井さん、杉山さん、東住吉事件の青木さんも、みんなウソの自白をさせられています。
足利事件の菅家さんにいたっては逮捕ですらありません。任意同行で取り調べを受けた最初の日にウソの自白を強要されています。
このように、えん罪が明らかになったほとんどすべての人がウソの自白をさせられています。しかも今日の日本の裁判所は、自白を証拠の柱とする判決を出し続けています。
これは、自白の強要こそ日本の司法が引き起こすえん罪の温床であることを示しています。
そして「ウソの自白なんかありえない」と思っている私たちのほとんどが、ひとたび、警察の取り調べにかかれば、身に覚えのない事件の犯人として自白させられてしまうということをも意味しています。
裁判所の証拠開示勧告を受けて、検察は50年ぶりに石川さんに対する取り調べ録音テープの一部を開示しました。
録音テープを鑑定した浜田寿美男・奈良女子大学名誉教授は、石川さんの自白を「秘密の暴露ではなく(犯行についての)無知の暴露」だとし、自白が石川さんの無実を証明していると述べました。
以下は鑑定にもとづく浜田さんの講演の一部抜粋です。
…三人犯行自白から単独犯行自白に移るところも非常に興味深いんですけれども、石川さんが単独犯行自白に移るときに、関源三(石川さんが親しかった交番の巡査)に、ほかの人を抜きに話しさせてほしいと訴えていた。これは控訴審の段階からすでに石川さんが主張していたことなんですが、その当時のことが録音テープ上も出てきている。別のえらいさんたちを除いて、関さんと一対一で話しさせてほしいという場面があるんですね。
その場面で石川さんは、関源三に対して「死体がどうなっていたのか。それが分かればしゃべれるんだ」と言っている。これは関源三の捜査報告書にもでているんですが、その状況がほぼ言われるままの形で録音テープに出てきているんですね。「死体がどうなっているんかがわかったらしゃべれるんだけど」という人が真犯人ですかっていう話ですよね。素直に石川さんの調書を読み、録音テープを読めば、やってない人だということははっきりとわかる。
しかも自白調書の出来上がっているものを見ますと、スラスラと「私はこうこうこうで」と一人語りでわーっと書いているような調書なんですね。
ところが録音テープを読んでみますと、石川さんがしゃべっているのはほんのポツポツなんですよ。テープ起こしをしますと、石川さんがしゃべっている部分というのは、一行の半分もいかないぐらい。捜査官がわーっと十行くらいしゃべって、石川さんが半行しゃべる。ところどころ「うん」とか「はい」とか「ううん」とかいうものだけ。ほとんど捜査官がしゃべっている。ところが調書が出来上がると石川さんがザァーっとしゃべったかのようになっている。「これ、どないして出来たんや」っていう話しになるわけですね…(狭山事件の再審を実現しよう市民のつどい実行委員会編『無実の人がなぜ自白するのか』より)
弁護団は、浜田教授による取り調べ録音テープの鑑定を東京高裁に新証拠として提出しています。
有罪判決が証拠の柱としてきた石川さんの「自白」調書が、実は石川さんの供述を録取したものではなく、似ても似つかない作文であること、石川さんの認めたことはすべて警察の誘導によるものであること、石川さんが事件をまったく知らず、犯人ではありえないことが取り調べ録音テープによって明らかとなりました。
裁判所は、浜田教授を法廷に呼び、自白についての事実調べをただちに行うべきです。